保険医療機関等における個別指導・監査の基礎知識

保険医療機関に対して、保険診療の質的向上及び適正化のために行われる行政指導として指導や監査が行われることがあります。

中でも個別指導が特に注目集めることが多いですが、指導・監査にも複数の種類が存在するところ、一連の手続として進行するため、そもそも個別指導の位置づけを理解するためには指導・監査の全体像を整理・理解しておくことが有益です

本コラムでは、主に保険医療機関に対する指導・監査の全体像や概要について理解しておくべきポイントについて解説します。

目次

1 指導・監査の全体像

指導・監査とは保険診療の質的向上及び適正化のために行われる行政指導の一つで、医療保険に関する国民健康保険法、健康保険法など根拠法として行われます。まずは指導が行われ、その中でも監査が必要と判断されたものについて監査に移行するものとされています。指導・監査の流れの全体像は次の図のとおりです。

(引用:厚生労働省「保険診療における指導・監査/指導・監査の流れ」)

2 指導の種類

指導は大きく、集団指導集団的個別指導個別指導に分けることができます。各指導の概要は次のとおりです。

(1)集団指導

大きな会場において講習会形式で行われるもので、保険医療機関の新規指定および指定更新にあたっての講習会や、診療報酬改定時に開催されます。保険診療の取扱い、診療報酬請求事務、診療報酬の改定内容や過去の指導事例等について講習・講演形式で指導が行われます。講習会が終わればそこで完結し、その後の措置や処分といったものはありません。

集団指導については欠席することによる直接のペナルティはないとされますが、基本的には参加するべきものです

(2)集団的個別指導

集団的個別指導は、対象とされた保険医療機関等を一定の場所に集めて実施されるもので、講習会形式の集団部分、個々の保険医療機関等を対象とする面談形式の個別部分からなります。

集団的個別指導は、次のようなにレセプト1件当たりの平均点数が高い保険医療機関等に対して実施されます

  • レセプト1件当たりの平均点数が都道府県の平均点数の1.2倍、病院については平均点数の1.1倍を超えること
  • 前年度及び前々年度に集団的個別指導又は個別指導を受けた保険医療機関を除き、類型区分ごとの保険医療機関の総数の上位より概ね8%

なお、前年度及び前々年度に個別指導・新規指導・集団的個別指導を受けた医療機関と、当年度に個別指導・新規指導を予定している医療機関は選定から除外されます。

集団的個別指導については正当な理由がなく拒否すると個別指導の対象となりますので、必ず出席する必要があります

(3)個別指導

個別指導は特定の保険医療機関等に対して実施される個別の指導であり、個別指導で指摘を受けた項目については診療報酬の自主返還を要求されたり、場合によっては保険医療機関等の指定が取り消されることもあるため慎重な対応が必要となります

病院については病院に厚生局の担当者などが訪問し病院内にて、診療所については厚生局の事務所等に出向いて実施されるもので、原則として指導月以前の連続した2ヵ月分の30人分のレセプト、関係書類などをもとに指導が行われます(新規個別指導の場合は1ヵ月分の10人分のレセプトが対象)。

個別指導は都道府県個別指導、共同指導、特定共同指導に分類されますが、個別指導とは地方厚生局及び都道府県が共同で実施する都道府県個別指導を指すのが一般的です。

個別指導は医療機関としても何とか回避したいものですが、その選定対象となるのは概ね次のような場合となります

  • 新規開業の医療機関の場合(新規個別指導)
  • 保険者、被保険者等からの情報提供により実施される場合
  • 集団的個別指導を受けたにもかからわらず、翌年度も平均点数が高得点(上位4%)に該当する場合
  • 集団的個別指導を正当な理由なく拒否した場合
  • 前回の個別指導の結果が「再指導」または「経過観察」であるもののうち、改善が認められなかった場合

(4)立入検査と適時調査

指導と混同しやすいものとして保健所等が実施する立入検査(医療監視)、厚生局が実施する適時調査があります。

これらは指導・監査と似ていますが、診療報酬の返還を要求されることはなく、また保険医療機関の指定を取り消されるものではありません。

立入検査(医療監視)とは、医療法25条に基づき実施されるもので、主に医療法に基づいた安全管理体制や感染対策、個人情報保護法の遵守、放射線機器の取り扱いといった、医療機関の設備・管理の維持を目的に点検が行われます。

適時調査は、診療報酬支払に関わる種々の施設基準の届出に関して、充足状況をチェックする調査となっています。入院基本料などの基本診療料から特掲診療料まで、すべての施設基準において届出要項と異なるところがないかについて確認が行われます。

なお、適時調査の結果、個別指導や監査に発展する場合もありますので、やはり慎重な対応が必要です

3 個別指導の結果

個別指導から1か月程度で厚生局より指導結果が通知されますが、個別指導の結果については次の4つに区分されます。

区分内容等
概ね妥当問題なしと判断された場合。特に追加の措置は講じられません。
経過観察適正を欠く部分が認められるものの、その程度が軽微で、かつ、改善が期待できる場合。経過観察の結果、改善が認められない場合には再指導を実施する。
再指導適正を欠く部分が認められ、再指導を行わなければ改善状況が判断できない場合。必要に応じて患者調査が実施され、不正・不当が判明した場合には要監査に移行する。
要監査監査要綱に定める監査要件に該当すると判断された場合。速やかに監査に移行する。

いずれの措置とするかについては、診療の内容及び診療報酬の請求に対する理解の程度、請求根拠となる記録の状況、請求状況等を確認し、次の4つの観点を中心に総合的に判断するとされています

  1. 診療が医学的に妥当適切に行われているか。
  2. 保険診療が健康保険法や療養担当規則をはじめとする保険診療の基本的ルールに則り、適切に行われているか。
  3. 「診療報酬の算定方法」等を遵守し、診療報酬の請求の根拠がその都度、診療録等に記録されているか。
  4. 保険診療及び診療報酬の請求について理解が得られているか。

また、個別指導の結果に基づき診療報酬の自主返還を要求されることがあります。形式として保険医療機関が自ら計算するため自主返還とされますが、半強制的な性格を有しています。

そのため、個別指導については慎重に対応する必要がありますが、個別指導の対策については次のコラムで詳しく解説しています。

関連記事:保険医療機関等における個別指導と対策

4 監査

監査は個別指導の結果などにより、保険診療の内容又は診療報酬の請求について、架空・付増請求等の不正等が疑われて「要監査」とされた場合に、保険医療機関の指定の取消など行政上の措置を検討するべく実施されるものです

個別指導の結果、監査に進んでしまった場合、保険医療機関の指定の取消の可能性が生じますので、個別指導において要監査とならないように、また、監査に進んでしまった場合にも取消処分とならないように慎重な対応が必要となります。

(1)監査の対象

監査の対象となるのは次のような場合とされています。

  1. 診療内容に不正または著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき
  2. 診療報酬の請求に不正または著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき
  3. 度重なる個別指導によっても診療内容または診療報酬の請求に改善が見られないとき
  4. 正当な理由がなく個別指導を拒否したとき

以上のように個別指導を正当な理由なく拒否した場合も監査の対象となるため、まずは監査にならないように個別指導の段階でしっかりと説明を尽くすことが重要です

(2)監査の流れ

監査は、次のような手続により進行します。

  1. 監査前の書面調査・患者等への実地調査
  2. 監査実施の通知
  3. 監査の実施

監査のより具体的な内容と対策については次のコラムで解説しています。

関連記事:保険医療機関等における監査の手続と対策

5 まとめ

以上のとおり、指導・監査の全体像や概要について理解すべきポイントを解説させていただきました。

しかし、指導・監査の全体像は一読しただけでは理解することは難しく、また、指導・監査の各プロセスにおいて、より深く理解しておくべきポイントは多岐にわたります。

当事務所では、複数の医療機関の顧問業務や個別指導・監査対応の経験を通じたノウハウを有しており、また、医療機関向けの法律書籍(医療法務ハンドブック-医療機関・介護施設のための予防法務と臨床法務)を刊行させていただくなど、医療法務に精通した弁護士が在籍しています。

当事務所では医療機関向けに初回無料法律相談を実施しておりますので、個別や監査についてお悩みの先生は是非一度お気軽にお問合せください。

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G&S法律事務所
野崎 智己(Nozaki Tomomi)

弁護士法人G&S法律事務所 パートナー弁護士。早稲田大学法務部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。第二東京弁護士会にて2014年弁護士登録。弁護士登録後、東京丸の内法律事務所での勤務を経て、2020年G&S法律事務所を設立。スタートアップ法務、医療法務を中心に不動産・建設・運送業などの企業法務を幅広く取り扱うとともに、離婚・労働・相続などの一般民事事件も担当。主な著書として、『企業法務ハンドブック-チェックリストで実践する予防法務と戦略法務』(中央経済社・2024年9月、執筆) 、『医療法務ハンドブック-医療機関・介護施設のための予防法務と臨床法務』(日本評論社・2024年12月、執筆)、『トラブル防止のための産業医実務Q&A』(公益財団法人産業医学振興財団・2025年5月、共著)、 『第2版 弁護士・法務担当者のための 不動産・建設取引の法律実務~売買、賃貸借、媒介、開発、設計・監理、建設請負~』(第一法規社・2025年9月、執筆)等。