保険医療機関等における個別指導と対策
個別指導は、保険診療の質的向上及び適正化のために行われる行政指導の一つであり、医療保険に関する国民健康保険法、健康保険法など根拠法として行われます。
個別指導を通じて、診療報酬請求の過誤請求等が判明した場合、多額の診療報酬の自主返還を求められることになったり、場合によっては保険医登録や保険医療機関の指定の取り消しに発展するケースもあるため、医療機関等としては非常に慎重に対応する必要があります。
個別指導対策としては、個別指導当日の対応のみならず、普段の診療業務において注意するべきポイントが多数存在するため、本コラムではそれぞれのポイントについて解説します。
目次
1 個別指導とは
そもそも個別指導とは、医療保険に関する国民健康保険法、健康保険法など根拠に行われる指導の一つであり、①集団指導、②集団的個別指導、③個別指導に分かれます。これらの指導・監査の全体像については、次の記事で解説しています。
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③個別指導については、結果次第で次のステップである監査に進む可能性もあること、診療報酬の自主返還を求められる可能性もあること等から医療機関としては慎重な対応が求められます。
個別指導は、次のとおり都道府県個別指導と新規個別指導に分けることができます。
ア 都道府県個別指導
都道府県個別指導とは、地方厚生局及び都道府県が共同で実施するもので、一般的な個別指導とはこの都道府県個別指導をいいます。
都道府県個別指導は次のような保険医療機関を対象に実施されるものとされています。
- 保険者、被保険者等からの情報提供により実施される場合
- 集団的個別指導を受けたにもかかわらず、翌年度も平均点数が高得点(上位4%)に該当する場合
- 集団的個別指導を正当な理由なく拒否した場合
- 前回の個別指導の結果が「再指導」とされた場合または「経過観察」であるもののうち、改善が認められなかった場合
イ 新規個別指導
新規個別指導とは、保険医療機関の新規指定から概ね6か月経過した保険医療機関等に対して実施される個別指導をいいます。
前述の都道府県個別指導より提出するレセプトの件数などは少なく、指導実施時間も短時間とされていますが場合によっては個別指導・監査に移行し、保険医療機関の指定取消に発展する可能性も否定できないため慎重な対応が求められます。
2 個別指導の流れと対応策
(1)実施通知
ア 実施通知と事前準備
個指導日の1か月ほど前に個別指導の実施通知が送られてきます。そのため、指導日当日までに事前の準備・対策を行うことが重要です。
そもそもなぜ個別指導の対象とされたのかという原因について検討を行うことが対策においては重要です。個別指導の対象とされる場合、次のような場合が挙げられます。
- 前述のようにレセプト1件あたりの点数が高い場合
- 元従業員や患者などの第三者からの情報提供がなされた場合
1.の場合、前提として集団的個別指導の対象とされるため、集団的個別指導を受けている場合には①である可能性が高いといえます。
2.の場合、第三者から何かしらの保険診療のルールへの違反の事実が指摘されたことが前提となっているため、どのような指摘がなされたのか情報提供元の第三者を推測した上で検討することが重要となります。
イ 資料準備
個別指導に先立ち、指導日の1週間前に20名分の患者名が、前日の正午までに10名分の対象患者名が指定され、実施日の持参診療が指示されます。そのため、まずは当該資料を漏れなく準備することが重要です。
そして、上記のように指導日の1週間前に指定される20名の患者の情報から個別指導の対象とされるレセプトの範囲、目的や指摘事項を推測することも有益です。具体的には、個別指導では指導日から概ね6か月前までのレセプトのうち連続する2か月分のレセプトが指導対象とされるところ、指定された20名の患者全員が来院している連続した2か月を特定し、その2か月の20名の診療録及びレセプトを確認することで指導目的、指摘事項を推測することがある程度可能であるケースも多く、ここから個別指導において想定される指摘事項とそれに対する回答を準備することが可能です。
(2)指導日当日
ア 指導日当日の対応
個別指導は指導対象がクリニックの場合は厚生局の会議室、病院の場合は病院内において、連続した2か月分の診療報酬明細書に基づき、持参した診療録等を含む関係書類を閲覧しながら、面談懇談方式により実施されます。
当日は事前に指示されたものを忘れた場合、指導が中断されて個別指導が2回、3回と続く可能性も否定でないため、個別指導の当日には事前に指示されたものを漏れなく持参又は準備することが大切です。
また、指導内容の確認の目的であれば録音は認められているので、事前に録音の許可を申し出たうえで個別指導の内容について録音を行うことも有効です。
イ 診療録等の謄写
個別指導の際に指導担当から診療録等を謄写(コピー)させて欲しいとの申し出を受けるケースもありますが、そもそも厚生局等に診療録を謄写する権限はなく、応じる法的義務はありません。謄写を認めることで後日、本来は指摘を受ける必要がなかった事項についてまで指摘を受ける可能性もあるところ、拒否したことを理由に不利益な処分を行う権限もありませんので、診療記録等の謄写について応じる必要はありません。
(3)弁護士による帯同
新規個別指導、通常の個別指導のいずれについても弁護士を帯同することが認められているところ、必要に応じて弁護士に帯同を求めることも有益です。
前述のように個別指導に先立ち、個別指導の対象とされた理由やこれを前提とした指摘事項・回答方針の検討について弁護士の協力を得ることができますし、指導日当日も弁護士の帯同により厚生局側の高圧的・公権的な言動や進行を抑制・牽制することができます。
なお、弁護士が直接回答することは認められていませんが、必要に応じて助言や補足、誘導尋問の防止や適宜休憩をはさむことを提案する等の対応を期待することができます。
3.個別指導対策として注意するべきポイント
個別指導では「保険診療の質的向上と適正化」を目的として、医師法、医療法、健康保険法、療養担当規則および診療報酬点数表等が遵守されているかの確認がなされます。
そのため、健康保険法、医師法、医療法、薬機法等の各種関係法令や保険医療機関及び保険医療養担当規則等の規定を遵守した保険診療を行い、根拠ある診療・調剤に基づくレセプト請求を日頃から心がけることが、結果的に指導・監査等への対策となります。
療養担当規則とは、健康保険法の72条に基づき、厚生労働大臣が保険医療機関と保険医が保険診療を行うにあたって守るべき基本事項を定めたもので、正式には「保険医療機関及び保険医療養担当規則」といいます。
その中でも個別指導の際に問題になりやすいポイントについて、厚生労働省が公表している「保険診療の理解のために(医科)」に基づいて説明させていただきます。
厚生労働省:保険診療における指導・監査(保険診療の理解のために(医科))
(1)診療録に関する留意事項
診療録は診療経過の記録であると同時に診療報酬請求の根拠とされ、診療事実に基づいて必要事項を適切に記載しなければ不正請求の疑い招くおそれがあるとされています。
一般的な記載上の留意点としては次のとおりです。
- 診療の都度、必要事項を記載する。
- 記載はペン等で、修正は修正液を用いず二重線で行う。
- 傷病名を所定の様式に記載し、絶えず整理する。
- 責任の所在を明確にするため、署名を必ず行う。
- 診療報酬請求の算定要件として、診療録に記載すべき事項が定められている項目があることに留意する。
(2)傷病名の記載に関する留意事項
- 医学的に妥当適切な傷病名を医師自ら決定する。
- 必要に応じて慢性・急性、部位、左右の別を記載する。
- 診療開始・終了年月日を記載する。
- 傷病の転帰を記載し病名を整理する。
- 疑い病名は早期に確定病名または中止とする
- 急性病名が長期間続くことは不適切
- 査定を防ぐための虚偽の傷病名(レセプト病名)は認められない
(3)診療報酬の算定に関する留意事項
- (初診料)医学的に初診といわれる診療行為があった場合に算定。ある疾患の診療中に別の疾患が発生した場合や、受診の間隔があいた場合でも、新たに初診料を算定できるわけではない。
- (再診料)一般病床200床未満は再診料、一般病床200床以上は外来診療料(検査、処置の一部が包括化)を算定する。来院の目的が、別の初・再診に伴う「一連の行為」である場合には、別に再診料は算定できない。
- (医学管理料)医学的管理や療養指導を適切に行った上で、算定要件として定められた指導の内容の要点等を診療録に必ず記載する必要がある。
- (在学医療)在宅患者訪問診療は、通院による療養が困難な者に対する定期的な診療であり、継続的な診療の必要のない者や通院が可能な者に対して安易に実施し、訪問診療料を算定してはならない。
- (検査・画像診断)個々の患者の状況に応じ検査項目を選択し段階を踏んで必要最少限の回数で行う。検査を行う根拠、結果、評価を診療録に記載する。
- (投薬)適応外投与、用法外投与、禁忌投与、長期漫然投与などの不適切な投与とならないようにする。
4 情報漏洩対策
在職中の職員や退職した職員からの嫌がらせ目的などの告発により、本来受ける必要のない個別指導や監査に発展するケースが少なくありません。さらに悪質な場合、カルテの無断持ち出しや破棄に至るケースもあります。
そのため、このようなトラブルに発展しないように職員との関係性構築はもちろんのこと、情報漏洩対策が重要となります。主な情報漏洩対策としては次のような方法が考えられます。
- 院内研修の実施
- 秘密保持に関する誓約書の作成
- 就業規則や秘密保持に関する規程の整備
研修内容や誓約書・就業規則の効果的な作成には弁護士などの専門家のアドバイスを受けながら行うことが重要となります。
5 弁護士費用
以上のとおり、個別指導対策として個別指導当日の帯同や事前準備が重要となります。当事務所では、次の費用により各法的サービスを提供しています。
(1)帯同のみ
弁護士が、個別指導・監査に帯同のみ行うプランです。
ア 手数料
| 個別指導 | 150,000円(税込175,000円) |
|---|---|
| 監査 | 250,000円(税込275,000円) |
(2)個別指導対応
弁護士が、個別指導への帯同、指導日前のコンサルティング、アフターフォローを含めてトータルサポートを行います。
ア 着手金
200,000円(税込220,000円)
※1期日で終わらなかった場合は、以降の1期日につき100,000円(税込110,000円)
イ 報酬金
| 要監査とならなかった場合 | 200,000円(税込220,000円) |
|---|
(3)顧問契約を締結の場合
顧問契約のプランに応じて優待料金を設定しているほか、タイムチャージ方式の適用も可能です。詳細についてはお問合せください。
6 まとめ
以上のとおり、個別指導対策に関して重要なポイントを解説させていただきました。
しかし、本コラムの解説は個別指導に関する一般的な説明にすぎませんので、実際の個別指導の場面では各医療機関のおかれた状況に応じて適切な分析・対応策の検討を行う必要があります。
当事務所では、複数の医療機関の顧問業務や個別指導対応の経験を通じたノウハウを有しており、また、医療機関向けの法律書籍(医療法務ハンドブック-医療機関・介護施設のための予防法務と臨床法務)を刊行させていただくなど、医療法務に精通した弁護士が在籍しています。
医療機関向けに初回無料法律相談を実施しておりますので、個別指導対応にお悩みの先生はG&Sまでお気軽にご相談ください。
