医師による医療行為(診療行為)の範囲

医師でなければ「医療行為」はできないといわれますが、その範囲は必ずしも明確ではありません。

また、医療はチームで提供されるものですが、医師自らが全て業務を行うことは現実的ではなく、その一部を看護師やその他の医療従事者と分担することになりますが、どこまでの業務であれば分担させてよいのか、その線引きも問題になります。

以下では、医師でなければ行えない「医療行為」の内容を明らかにした上で、その他の医療従事者に行わせることが認められる業務内容について解説したいと思います。

目次

1 医師でなければ行えない医療行為について

(1)医師法17条について

医師や歯科医師でなければ医療行為を行えないとする根拠は次のとおり、医師法(歯科医師法)17条に求められています。

医師法第17条(歯科医師法17条)
医師(歯科医師)でなければ、(歯科)医業をなしてはならない。  

この条文に違反した場合には、「3年以上の懲役若しくは100万円以下の罰金」として厳しい刑罰を科されており、医師でなければ、「医業」をなしてはならないという形で、医師以外がいわゆる医療行為を行えないようにものと定めています。

(2)「医業」の内容について

ア 医業について

では、医師でなければ行うことができない「医業」とは何を意味するのでしょうか。

この点、判例(最判昭和28年11月20日 刑集7巻11号2249頁)は、「医業」とは、反復継続する意思をもって(=業として)、医行為をなすことと判断しています。つまり、医業の内容を理解するためには、「医行為」の内容を理解する必要があります。

イ 医行為について

判例は「医行為」について「医療及び保健指導に属する行為のうち、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為」との基準を示しています(最判令和2年9月16日 刑集74巻6号581頁)。

この基準は大きく、①医療及び保険指導に属する行為(医療関連性)②医師が行うのでなければ保健衛生上危害生ずるおそれのある行為、の2つの要素から構成されています。しかし、このうち、①医療関連性を医行為の要件とするかについて議論がありました。

厚生労働省による平成17年7月26日付けの通達では、医行為とは、「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為」とされており、①の要素を挙げてはおりませんでした。

前述の判例は、医師ではないものがタトゥー施術を行ったことを理由に医師法違反で起訴された事案ですが、同事件ではタトゥー施術が「医行為」に該当するか否かという点が争われました。

最終的に判例は、「社会通念に照らして、医療及び保健指導に属する行為であるとは認め難く、医行為には当たらない」として、①を満たさないので医行為ではなく、タトゥー施術を医師以外の者が実施しても医師法17条違反にはならないと結論付けています。

(3)具体的なケースについて

判例において「医行為」に該当するかの基準については、「①医療及び保険指導に属する行為(医療関連性)、②医師が行うのでなければ保健衛生上危害生ずるおそれのある行為」として示されたものの、抽象的な基準に留まるため個々の行為が医行為に該当するか否かについては、個別具体的な検討が必要となります。

この点、厚生労働省の通達において、問題となり得る行為について見解を示していますので参考になります。

ア 平成17年7月26日付け通達

 本通達は次のように医療行為に該当する行為、該当しない行為を分類・整理しています。

医行為に該当するとされているもの
①用いる機器が医療用であるか否かを問わず、レーザー光線又はその他の強力なエネルギーを有する光線を毛根部分に照射し、毛乳頭、皮脂腺開口部等を破壊する行為(レーザー脱毛)
②針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為(アートメイクなど)
③酸等の化学薬品を皮膚に塗布して、しわ、しみ等に対して表皮剥離を行う行為(ケミカルピーリング)
医行為に該当しないとされているもの
①体温計を用いた体温測定
②自動血圧測定器により血圧測定
③新生児以外の者であって入院治療の必要がないものに対して、動脈血酸素飽和度を測定するため、パルスオキシメータを装着すること
④軽微な切り傷や擦り傷、やけど等の処置で専門的な判断・技術を必要としないもの(ガーゼ交換を含む)
⑤一定の条件のもとで行う軟膏の塗布、湿布の貼付、点眼薬の点眼、内用薬の内服、座薬挿入、点鼻薬の噴霧介助通常の範囲内の爪切り、歯磨きなどの口腔内の清掃、耳掃除、ストマ装具のパウチにたまった排泄物の廃棄、自己導尿の補助、市販薬による浣腸

なお、このうち医療行為に該当するとされている、②アートメイクについては、前述の判例が示した①医療及び保険指導に属する行為(医療関連性)の要素を満たさずに医療行為性が否定されるのではないかが疑問となります。

この点については、当該判例の原審に当たる高裁判決(大阪高判平成30年11月14日 刑集74巻6号637頁)において、美容整形外科手術等が、医師によって発展、形成外科分野の一分野と専門分化してきた経緯、診療標榜科目にも追加されていること等を理由に①の要素を満たすとし、アートメイクもこの美容整形外科手術等に含まれるとの判断が示されている点が参考になるでしょう。

イ 令和4年12月1日付け通達

また、厚生労働省は令和4年12月1日付け通達において、特に介護現場で実施されることが多いと中心に医療行為ではないと考えられる行為について整理を行っており、特に介護施設などで介護職員が業務を行う際の参考となります。

医行為に該当しないとされているもの
(在宅介護等の介護現場におけるインスリンの投与の準備・片付け関係)
① 在宅介護等の介護現場におけるインスリン注射の実施に当たって、あらかじめ医師から指示されたタイミングでの実施の声かけ、見守り、未使用の注射器等の患者への手渡し、使い終わった注射器の片付け(注射器の針を抜き、処分する行為を除く。)及び記録を行うこと。
② 在宅介護等の介護現場におけるインスリン注射の実施に当たって、患者が血糖測定及び血糖値の確認を行った後に、介護職員が、当該血糖値があらかじめ医師から指示されたインスリン注射を実施する血糖値の範囲と合致しているかを確認すること。
③ 在宅介護等の介護現場におけるインスリン注射の実施に当たって、患者が準備したインスリン注射器の目盛りが、あらかじめ医師から指示されたインスリンの単位数と合っているかを読み取ること。
 
(血糖測定関係)
④ 患者への持続血糖測定器のセンサーの貼付や当該測定器の測定値の読み取りといった、血糖値の確認を行うこと。

(経管栄養関係)
⑤ 皮膚に発赤等がなく、身体へのテープの貼付に当たって専門的な管理を必要としない患者について、既に患者の身体に留置されている経鼻胃管栄養チューブを留めているテープが外れた場合や、汚染した場合に、あらかじめ明示された貼付位置に再度貼付を行うこと。
⑥ 経管栄養の準備(栄養等を注入する行為を除く。)及び片付け(栄養等の注入を停止する行為を除く。)を行うこと。なお、以下の3点については医師又は看護職員が行うこと。
・ 鼻からの経管栄養の場合に、既に留置されている栄養チューブが胃に挿入されてい るかを確認すること。
・ 胃ろうや腸ろうによる経管栄養の場合に、び爛や肉芽など胃ろう・腸ろうの状態に問題がないことを確認すること。
・ 胃や腸の内容物をチューブから注射器でひいて、性状と量から胃や腸の状態を確認し、注入内容と量を予定通りとするかどうかを判断すること。  

(喀痰吸引関係)
⑦ 吸引器に溜まった汚水の廃棄や吸引器に入れる水の補充、吸引チューブ内を洗浄する目的で使用する水の補充を行うこと。

(在宅酸素療法関係)
⑧ 在宅酸素療法を実施しており、患者が援助を必要としている場合であって、患者が酸素マスクや経鼻カニューレを装着していない状況下における、あらかじめ医師から指示された酸素流量の設定、酸素を流入していない状況下における、酸素マスクや経鼻カニューレの装着等の準備や、酸素離脱後の片付けを行うこと。ただし、酸素吸入の開始(流入が開始している酸素マスクや経鼻カニューレの装着を含む。)や停止(吸入中の酸素マスクや経鼻カニューレの除去を含む。)は医師、看護職員又は患者本人が行うこと。
⑨ 在宅酸素療法を実施するに当たって、酸素供給装置の加湿瓶の蒸留水を交換する、機器の拭き取りを行う等の機械の使用に係る環境の整備を行うこと。
⑩ 在宅人工呼吸器を使用している患者の体位変換を行う場合に、医師又は看護職員の立会いの下で、人工呼吸器の位置の変更を行うこと。  

(膀胱留置カテーテル関係)
⑪ 膀胱留置カテーテルの蓄尿バックからの尿廃棄(DIBキャップの開閉を含む。)を行うこと。 ⑫ 膀胱留置カテーテルの蓄尿バックの尿量及び尿の色の確認を行うこと。
⑬ 膀胱留置カテーテル等に接続されているチューブを留めているテープが外れた場合に、あらかじめ明示された貼付位置に再度貼付を行うこと。
⑭ 専門的管理が必要無いことを医師又は看護職員が確認した場合のみ、膀胱留置カテーテルを挿入している患者の陰部洗浄を行うこと。  

(服薬等介助関係)
⑮ 患者の状態が以下の3条件を満たしていることを医師、歯科医師又は看護職員が確認し、これらの免許を有しない者による医薬品の使用の介助ができることを本人又は家族等に伝えている場合に、事前の本人又は家族等の具体的な依頼に基づき、医師の処方を受け、あらかじめ薬袋等により患者ごとに区分し授与された医薬品について、医師又は歯科医師の処方及び薬剤師の服薬指導の上、看護職員の保健指導・助言を遵守した医薬品の使用を介助すること。具体的には、水虫や爪白癬にり患した爪への軟膏又は外用液の塗布(褥瘡の処置を除く。)、吸入薬の吸入及び分包された液剤の内服を介助すること。
・ 患者が入院や入所して治療する必要がなく容態が安定していること
・ 副作用の危険性や投薬量の調整等のため、医師又は看護職員による連続的な容態の経過観察が必要である場合ではないこと
・ 内用薬については誤嚥の可能性など、当該医薬品の使用の方法そのものについて専門的な配慮が必要な場合ではないこと  

(血圧等測定関係)
⑯ 新生児以外の者であって入院治療の必要ないものに対して、動脈血酸素飽和度を測定するため、パルスオキシメーターを装着し、動脈血酸素飽和度を確認すること。  
⑰ 半自動血圧測定器(ポンプ式を含む。)を用いて血圧を測定すること。

(食事介助関係)
⑱ 食事(とろみ食を含む。)の介助を行うこと。  

(その他関係)
⑲ 有床義歯(入れ歯)の着脱及び洗浄を行うこと。

なお、通達は、「病状が不安定であること等により専門的な管理が必要な場合には、医行為であるとされる場合もあり得る。」としており、必要に応じて、医師や看護師等に対して、専門的な管理が必要な状態であるかどうか確認することが考えられると述べている点には注意が必要です。

2 医師以外の医療従事者の業務

前述のとおり、医師法17条により医師でなければ医行為を行えないとされていますが、看護師などの医療従事者については、医師の指示のもとで一部の医行為を行うことが認められている場合があります。

(1)看護師による医行為について

看護師は、「診療の補助」と「療養上の世話」を行うものとされています(保助看法5条)。

ア 療養上の世話

「療養上の世話」とは、看護師の判断により行うことができる看護師の本来的な業務であり、具体的には症状観察、食事介助、清拭や排せつ介助、体位変換や移動解除、転倒予防のための付き添いなどがこれにあたります。

以上の行為については、医師が行わなくても保険衛生上の危害を生じるおそれのないため医行為には該当しないとされ、医師の指示を受けることなく看護師が単独で行うことが認められています

イ 診療の補助

「診療の補助」については、医師の医行為の一部をなす行為として、保助看法37条において「保健師、助産師、看護師又は准看護師は、主治の医師又は歯科医師の指示があつた場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない」と定められているように医師の指示がなければ行うことができないとされています。なお、以上の整理については、「准看護師」についても異なるところはありません。

医師と看護師等の役割分担については、厚生労働省による「医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について」に整理されており、以下のような行為については看護師等が行うことができるものとして挙げられています。

  1. 薬剤の投与量の調節
  2. 静脈注射(動脈注射については医師でなければ行えません)
  3. 救急医療等における診療の優先順位の決定
  4. 入院中の療養生活の対応
  5. 患者・家族への説明
  6. 採血、検査の説明

(2)特定看護師について

2015年10月からは特定看護師の研修制度の運用が開始され、「診療の補助」のうち特定行為とされた21区分38行為について指定された研修機関での研修を受けた特定看護師であれば、医師の具体的な指示がなくても事前に作成された手順書に従って診療補助業務を行うことができるようになりました。特定行為の内容については厚生労働省の「特定行為とは」のページをご確認ください。

なお、手順書とは医師が作成する指示書のようなもので、以下の6つの内容が記載されている必要があります。

  1. 対象となる患者で、看護師が特定行為をおこなえる病状の範囲
  2. 特定看護師がおこなえる特定行為の内容
  3. 特定行為をおこなう対象の患者(名)
  4. 特定行為をおこなうときに確認する必要のある事項
  5. 医師に連絡が必要になったときの連絡体制
  6. 特定行為後の医師への報告方法

(3)その他の医療従事者による医療行為

その他にも、助産または妊婦・新生児などの保険指導を行うとされる「助産師」(なお、助産師については看護師の業務を行うこともできます)や、医師の指示の下、血液学的検査、病理学的検査、生化学的検査などの検体検査や心電図・心音図検査、脳波検査などの生理学的検査を行うとされる「臨床検査技師」などの医療従事者が存在しています。

3 まとめ

以上のとおり、医療行為(医行為)の範囲については一定の基準が示されているものの、その境界はあいまいで、個別具体的な事案について過去の行政解釈や判例を踏まえて慎重に検討する必要があります。仮に、自らの判断で看護師等に医師でなければ行うことができない医行為を実施させた場合、刑事処分及び医業停止・免許取消などの行政処分を受けることになりかねません。 当事務所では、医療行為に該当するかの検討・相談にも対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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G&S法律事務所
野崎 智己(Nozaki Tomomi)

弁護士法人G&S法律事務所 パートナー弁護士。早稲田大学法務部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。第二東京弁護士会にて2014年弁護士登録。弁護士登録後、東京丸の内法律事務所での勤務を経て、2020年G&S法律事務所を設立。スタートアップ法務、医療法務を中心に不動産・建設・運送業などの企業法務を幅広く取り扱うとともに、離婚・労働・相続などの一般民事事件も担当。主な著書として、『一問一答 金融機関のための事業承継のための手引き』(経済法令研究会・2018年7月、共著) 、『不動産・建設取引の法律実務』(第一法規・2021年、共著)、「産業医の役割と損害賠償責任及びその対処」(産業医学レビューVol.32 No.1・令和元年、共著)、『弁護士のための医療法務入門』(第一法規・2020年、共著)等。