出向・転籍の基礎知識

目次

1 出向とは

出向とは、労働者が使用者たる出向元との労働契約に基づく労働者としての身分を維持しながら、出向先との会社との間においても雇用関係を発生させることをいいます。
派遣に似ていますが、派遣は派遣先の会社との関係で雇用関係を生じませんので、その点で出向とは異なることになります。

出向後の労働条件については契約により定められている場合にはこれに従うことになりますが、このうち労働時間、休憩、休日などの労働条件については出向先の就業規則に従うことが一般的です。
時間外労働・休日労働については、時間外労働・休日労働に関する労働協定(いわゆる36協定)に関しては、出向先の労働協定締結の際の労働者数に含まれるところ、出向先に労働協定が存在する必要があり、存在する場合にはこれに従うことになります。

2 出向の法的根拠

出向を命じる場合には、就業規則などにおいて出向を命じることができる旨の有効な規定が存在している必要があり、そのような規定が存在しない場合に労働者を出向させるためには労働者の個別の同意が必要となります。
また、就業規則上の規定に基づき出向を命じることができる場合であっても、出向の必要性や出向に伴う労働条件の変更内容やこれにより労働者が受ける不利益の程度などの諸般の事情を考慮して、権利の濫用と認められる場合には出向命令は無効となる可能性があります(労働契約法14条)。

ただ、意に沿わない出向命令を受けた場合、本当にその出向命令を受け入れる必要があるかについては慎重に検討する必要があります。なぜならば、有効な出向命令に従わない場合、業務命令違反として最悪解雇されるリスクもあるからです。この点、出向が有効か無効かはケースによって異なりますので専門家である弁護士に相談した方が良いでしょう。

3 転籍とは

出向とは、労働者が使用者たる出向元との労働契約に基づく労働者としての身分を維持しながら、出向先との会社との間においても雇用関係を発生させることをいいます。

他方で、転籍とは、労働者が使用者たる転籍元との労働契約を終了させ、転籍先の会社との間において新たに労働契約関係を発生させることをいいます。出向とは異なり、元の会社との労働契約を終了させることになりますので、転籍については就業規則などに定めがあるだけでは足りず、労働者との間で個別の同意が必要とされています。
そのため、望まぬ転籍を求められた場合には明確に同意しない旨の意思表示を行うことが重要であり、もし会社に強く転籍を要求された場合には弁護士などの専門家に相談して会社に不当な要求を撤回するように交渉してもらうことも選択肢になるでしょう。

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G&S法律事務所
野崎 智己(Nozaki Tomomi)

弁護士法人G&S法律事務所 パートナー弁護士。早稲田大学法務部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。第二東京弁護士会にて2014年弁護士登録。弁護士登録後、東京丸の内法律事務所での勤務を経て、2020年G&S法律事務所を設立。スタートアップ法務、医療法務を中心に不動産・建設・運送業などの企業法務を幅広く取り扱うとともに、離婚・労働・相続などの一般民事事件も担当。主な著書として、『一問一答 金融機関のための事業承継のための手引き』(経済法令研究会・2018年7月、共著) 、『不動産・建設取引の法律実務』(第一法規・2021年、共著)、「産業医の役割と損害賠償責任及びその対処」(産業医学レビューVol.32 No.1・令和元年、共著)、『弁護士のための医療法務入門』(第一法規・2020年、共著)等。