高次脳機能障害
本コラムでは、高次脳機能障害とその後遺障害等級の認定のポイントについて解説いたします。
目次
1 高次脳機能障害
ケガや病気によって脳に血腫などの傷害を負うと、次のような症状が発生することがあります。
(1)記憶障害
- 憶えたことをすぐに忘れる。
- 新しい物事を覚えられない。
- 同じことを何度も聞いてしまう。
(2)注意障害
- ぼんやりして、ミスが多くなる。
- ふたつ以上のことを並行して行うと混乱する。
- 作業に集中できない、集中がすぐ途切れてしまう。
(3)遂行機能障害
- 自分で計画を立てて物事を実行できない。
- 人に指示してもらわないと行動できない。
- 約束の時間を分かっているのに、間に合わない。
(4)社会的行動障害
- 以前と変わって怒りやすくなる。
- 些細なことで興奮し、暴力を振るう。
- 他人に配慮できなくなり、自己中心的になる。
脳の物理的な損傷(器質的所見)によってこのような症状が発生し、日常生活または社会生活に制約が出る障害を、高次脳機能障害と呼びます。
2 高次脳機能障害の後遺障害等級
高次脳機能障害には、症状の重さに応じて、介護の必要な後遺障害として1級1号、2級1号、その他通常の後遺障害として3級3号、5級2号、7級4号、9級10号、12級13号の後遺障害等級がそれぞれ規定されています。どの等級を認定されるかによって、損害賠償金額も異なってきます。
(1)介護を要する後遺障害
ア 1級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
高次脳機能障害によって、常に付きっきりで介護をする人がいないと生きていられない状態になった方です。
後遺障害慰謝料として2800万円と、後遺障害逸失利益として、健康だったら今後の生涯で得られたと見込まれる将来収入の100%が補償されます。
イ 2級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
1級ほどではないものの、日常生活の衣食住の動作をするにも介護の手助けが必要な状態になった方や、転落、誤嚥、徘徊などを防ぐために見守りが必要な方です。
後遺障害慰謝料として2370万円と、後遺障害逸失利益として、健康だったら今後の生涯で得られたと見込まれる収入の100%が補償されます。
また、1級、2級の後遺障害等級については、将来にわたる介護費が補償されます。なお、下記の3級以下の後遺障害についても、実際に介護が必要になっていて、将来にわたって介護費の発生が見込まれることを具体的に立証することができれば、その一部の補償を受けることができます。
(2)後遺障害
ア 3級3号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
高次脳機能障害により、日常的な介護は必要ないものの、記憶障害や注意障害等が重いため、自分がいま勤務先にいることを理解し、記憶する、指示された作業をするといった就労に必要なことがまったくできなくなった方がこれに当たります。
後遺障害慰謝料として1990万円と、後遺障害逸失利益として、健康だったら今後の生涯で得られたと見込まれる収入の100%が補償されます。
イ 5級2号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの
高次脳機能障害により、特に簡単な仕事以外はできないと認められる場合に認定されます。例えば、一人では手順どおりに作業をすることが困難で、頻繁に指示を受けなければ作業を進められないという方がこれに当たります。
後遺障害慰謝料として1400万円と、後遺障害逸失利益として、健康だったら今後の生涯で得られたと見込まれる収入の79%が補償されます。
ウ 7級4号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの
高次脳機能障害により、簡単な仕事以外はできないと認められる場合に認定されます。例えば、単純作業をする際に、時々上司の指示を受ければ作業を進めることができるといった方がこれに当たります。
後遺障害慰謝料として1000万円と、後遺障害逸失利益として、健康だったら今後の生涯で得られたと見込まれる収入の56%が補償されます。
エ 9級10号 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
高次脳機能障害により、選べる職業が相当狭く制限されてしまうことになった方がこれに当たります。例えば、複雑な事務作業ができなくなり、また感情を制御できなくなって、顧客と接する仕事や、社内で折衝の必要な仕事ができなくなった方がこれに当たります。
後遺障害慰謝料として690万円と、後遺障害逸失利益として、健康だったら今後の生涯で得られたと見込まれる収入の35%が補償されます。
オ 12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
高次脳機能障害の症状によって仕事に少なからず支障が出ている方がこれに当たります。
後遺障害慰謝料として290万円と、後遺障害逸失利益として、今後の生涯又は症状が緩解するまでに得られたと見込まれる収入の10~14%が補償されます。
3 高次脳機能障害の後遺障害等級認定
高次脳機能障害について適切な補償を受けるには、自賠責保険(や、場合により労災保険)により、適切な後遺障害等級が認定される必要があります。
次脳機能障害として後遺障害を受けるうえでは、次の3点が重要です。
(1)脳に物理的な損傷(器質的所見)があること
MRI、CT、脳波などの検査で、脳に血腫、脳挫傷等の、目に見える異常が確認されていることが重要となります。
(2)事故後に、記憶障害や注意障害などの具体的な症状が発生していること
記憶障害や注意障害といった症状によって、日常生活や社会生活に支障が出ていることが重要です。
特に、事故後に怒りやすくなった等の社会的行動障害は、事故後に初めて診察をする医師が事故前と比べてどれだけ性格が変わってしまったかを詳しく把握し、診断をするには、家族など周囲の方による報告が必要となります。
高次脳機能障害が疑われる場合、不幸にも症状が完治しなかった場合に備え、事故後なるべく早い段階から、異常や兆候をなるべく日時とともに記録し、医師の診察時に伝えるといった家族の努力が重要になってきます。
(3)事故直後に意識障害があったこと
事故直後に意識障害が6時間以上継続した場合には高次脳機能障害が残りやすいとされていて、後遺障害の認定の重要なポイントとなっています。
これらのポイントを押えることが、適切な後遺障害等級認定を受けるには欠かせません。
4 まとめ
以上のとおり、高次脳機能障害について適切な賠償を受けるには、ポイントをしっかり押さえて申請を行い、後遺障害として認定を受け、交渉や裁判で適切な補償を求める必要があります。当事務所では、後遺障害等級の認定のサポートも含めて交通事故の交渉について対応しておりますので、お気軽にご相談ください。