残業代請求の方法

目次

1 証拠収集

未払いの残業代請求を行う場合、過去の残業時間及びこれに基づく未払いの残業代について労働者の側で証拠に基づいて具体的に立証する必要があります。

その場合、特に労働時間を立証する証拠が重要となりますが、企業側の協力が得られない場合も少なくなく、その場合には次のような方法で証拠を集めることが考えられます。

(1)タイムカード

多くの職場ではタイムカードで労働時間を管理していることが一般的だと思いますので、そのタイムカードのコピーや写真を撮っておくことが考えられます。

タイムカードの代わりに勤怠管理システムなどを利用している場合は、そのデータやプリントアウトを入手する方法があり得ます。

(2)日報・業務報告

タイムカードや勤怠管理システム以外でも、日報や業務日誌などで業務時間や出退勤時刻を報告している場合、このような資料も重要な証拠になり得ます。

また、このような資料がない場合であっても、オフィスへの入退室時刻や業務で使用しているPCのログイン・ログオフの時間の記録も証拠となることがあります。

(3)メールやLINE

タイムカードや上記のような記録・資料がない場合でも、メールの送信記録が証拠となることがあります。これはその時間に業務を行っていたことの裏付けとなるためです。

また、業務上のメールではなくても、これから自宅に帰宅する旨の家族とのメールやLINEなどの送信時刻についても労働時間を立証する重要な手段となります。

(4)手帳・日記

これらの証拠がない場合、毎日の出退勤時刻を手帳や日記に記録しておくことで、これを証拠として利用するケースもあります。ただし、時刻の記載が大雑把であったり、未記載・明らかに事実と異なる記載が散見されるようなケースでは信用されないおそれもあるため、漏れなく正確に記録する必要があります。

2 残業代請求の流れ

証拠が収集できれば、証拠に基づいて具体的な残業代の金額を計算することになります。基本的な残業代の計算方法は「残業代の基礎知識」で説明したとおりですが、各企業ごとに労働条件や労働環境は全く異なるところ、残業代の計算に際しては数多くの論点について法的な検討を行う必要があるため、弁護士などの専門家に依頼しなければ正確な残業代を計算することが難しい場合も少なくありません。

そして、具体的な残業代が計算できた場合、企業に対して具体的な残業代を請求することになるわけですが、請求の流れについては「事件解決までの流れ」で説明したとおりです。

3 付加金・遅延損害金

会社が労働基準法で定められた残業代などの割増賃金を不払いしている場合、裁判所は最大で未払い残業代と同額までの「付加金」の支払いを命じることができるとされています(労働基準法114条)。

付加金は企業に対するペナルティの性質を有しており、未払いの金額、期間、理由や対応などの諸般の事情を考慮した上で、悪質な事案において付加金の支払いが命じられることになります。

なお、割増分の残業代にしか付加金の対象となりませんので、法内残業分に関しては付加金の対象とはならず、また、労働審判では付加金の支払が命じられることはありません。

また、未払いの残業代については遅延損害金が上乗せされることになり、給与の各支給日の翌日から年3%(2020年3月以前の分については年6%)が上乗せされます。さらに退職後については、年14.6%と非常に高い率の遅延利息を上乗せしなければならないとされています(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項)。

そのため、事件解決まで時間を要すれば要するほど、企業側が支払うべき金額はどんどん膨れ上がっていくことになるところ、付加金もあわせて考えると当初の残業代の数倍の金額を支払わなければならなくなるケースもあります。

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G&S法律事務所
野崎 智己(Nozaki Tomomi)

弁護士法人G&S法律事務所 パートナー弁護士。早稲田大学法務部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。第二東京弁護士会にて2014年弁護士登録。弁護士登録後、東京丸の内法律事務所での勤務を経て、2020年G&S法律事務所を設立。スタートアップ法務、医療法務を中心に不動産・建設・運送業などの企業法務を幅広く取り扱うとともに、離婚・労働・相続などの一般民事事件も担当。主な著書として、『一問一答 金融機関のための事業承継のための手引き』(経済法令研究会・2018年7月、共著) 、『不動産・建設取引の法律実務』(第一法規・2021年、共著)、「産業医の役割と損害賠償責任及びその対処」(産業医学レビューVol.32 No.1・令和元年、共著)、『弁護士のための医療法務入門』(第一法規・2020年、共著)等。