医療法人の設立

目次

1 設立要件

医療法人の設立のためには法律の定める要件を満たす必要があり、大きく人的要件、資産要件に分かれています。以下では、社団医療法人の場合の要件を解説いたします。

(1)人的要件

ア 社員

原則として、3名以上の社員が必要となります。
社員は社員総会において医療法人の運営上の重要事項の意思決定を行うもので、株式会社の株主に相当しますが、株式会社と異なり出資は必要とされません。

イ 役員

原則として、理事3名以上、監事1名以上が必要となります(医療法46条の2)。
理事は理事会において医療法人の運営上の意思決定を行うもので、株式会社の取締役に相当します。なお、理事は医師や歯科医師(医師等)である必要はありませんが、理事から理事長を1名選定する必要があるところ理事長は医師等である必要があるため(医療法46条の3)、理事のうち1名は少なくとも医師等である必要があります。
監事は株式会社の監査役に相当するものであり、医師等である必要はありませんが、理事やその親族、取引先や従業員などの医療法人の利害関係者は監事になることはできません。

(2)資産要件

医療法人は、その業務を行うために必要な資産を有していなければならないとされています(医療法41条1項)。
具体的には、医療法人の設立のためには設立後2か月分の運転資金を確保しておく必要があるとされています。これは医療法人設立後、保険診療収入が入金されるのが約2か月後のため、その間の運転資金を確保しておく必要があるという配慮に基づくものです。
また、その他にも医療法人の運営に必要な不動産、医療用機器、備品等の業務に必要な資産の拠出が必要とされています。なお、不動産については個人の医院・クリニックの賃貸借契約を医療法人が承継することによって施設を確保することでも良いとされていますが、長期間(10年以上)のもので、更新・再契約により継続使用が可能なものである必要があります。

2 設立の流れ

医療法人を設立するためには都道府県知事の認可を受ける必要があり、都道府県によって異なりますが認可まで6か月程度の期間を要します。なお、医療審議会の開催は年に数回と限られており、医療審議会の開催されるタイミング次第では認可までの期間は前後します。
大まかな医療法人の設立、病院・診療所の開設許可、及び保険医療機関の指定申請の流れ・スケジュールは次のとおりです。

(1)設立準備・必要書類の収集

まずは、社員・理事・監事の決定、拠出財産の検討、定款・財産目録・事業計画といった書面作成などの設立準備や、社員になる人の印鑑証明書、履歴書や確定申告書などの必要書類の収集から始めることになります。
なお、都道府県によっては医療法人設立説明会が設けられている場合があり、設立説明会に出席しなければならない場合もあるため注意が必要です(例えば、東京都は任意とされていますが、千葉県は出席が義務付けられています)。
そして、このような準備が完了した時点で設立総会を開催し、設立総会議事録を作成します。

(2)医療法人設立認可申請

設立準備・必要書類の収集、設立総会を経て、都道府県の書式に沿って作成した医療法人設立認可申請書に、定款、財産目録、設立総会議事録などの添付書類をあわせて提出します。
手続は仮申請と本申請に分かれており、仮申請のタイミングで不足書類などの追加・補正指示や保健所などの関係機関への紹介、面接などが実施されます。
仮申請において本申請への許可が出たら本申請に進むことになります。

(3)医療法人の設立

医療審議会での審査を経て、医療法人設立認可書の交付を受けたら、次は法務局に設立登記申請を行います。設立登記をもって医療法人の設立となり、登記日が設立日となります。

(4)病院・診療所の開設許可申請

医療法人の設立登記が完了したら、保健所に対して病院・診療所の開設許可申請を行うことになります。開設許可申請に際しては保険所による立ち合い検査が実施される場合もあります。
そして、保健所による審査に問題がなければ開設許可書が交付されることになります。

開設許可書の交付により医療法人での診療業務が始められるようになります。ただし、病院・診療所の開設後10日以内に管轄する保健所に対して開設届を提出する必要があります。
また、既存の個人病院・診療所が存在する場合には、あわせて廃止届を提出する必要があります。

(5)保険医療機関の指定申請

保険診療を行うためには、開設届の提出後に管轄する地方厚生局に対して保険医療機関の指定申請を行い、保険医療機関の指定を受ける必要があります。なお、個人の病院・診療所について保険医療機関指定を受けている場合、あわせて保険医療機関廃止届を提出することになります。
開設後に保険医療機関の指定まで空白期間が生じることになりますが、遡及申請が認められており、その申請をすることで申請月の開設日にさかのぼって保険医療機関の指定を受けることが可能です。申請の締め切りは月中に設けられており、開設から申請の締め切りまであまり余裕がありませんので、スケジュールには注意が必要です。

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G&S法律事務所
野崎 智己(Nozaki Tomomi)

弁護士法人G&S法律事務所 パートナー弁護士。早稲田大学法務部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。第二東京弁護士会にて2014年弁護士登録。弁護士登録後、東京丸の内法律事務所での勤務を経て、2020年G&S法律事務所を設立。スタートアップ法務、医療法務を中心に不動産・建設・運送業などの企業法務を幅広く取り扱うとともに、離婚・労働・相続などの一般民事事件も担当。主な著書として、『一問一答 金融機関のための事業承継のための手引き』(経済法令研究会・2018年7月、共著) 、『不動産・建設取引の法律実務』(第一法規・2021年、共著)、「産業医の役割と損害賠償責任及びその対処」(産業医学レビューVol.32 No.1・令和元年、共著)、『弁護士のための医療法務入門』(第一法規・2020年、共著)等。