医療法人制度の概要

医療法人の大きな特徴として次の2点を挙げることができます。

目次

(1)限定責任

個人で医療機関を開設している場合、医療機関の運営によって生じる債務(金融機関からの借入、賃料、リース料、給与など)について、個人の資産をもってでも弁済するべき責任(無限責任)を負うことになりますが、医療法人については個人として連帯保証などをしていない限り、医療機関の運営によって生じる債務について法人の資産をもって弁済することで足り、個人資産をもって弁済を行うべき責任を負うことはありません。これは医療法人を設立するメリットと考えられます。

(2)非営利性

企業の場合、企業活動による剰余金を株主などに配当することが認められていますが、医療法人では剰余金の配当が禁止されており(医療法54条)、この点を捉えて医療法人は非営利であって、利益を追求することは認められないとされることがあります。

しかし、同条文は剰余金の配当が禁止されているにすぎず、もちろん医療法人が設備投資、役員や従業員に対して給与を支払うこと、理事長が保有する土地・建物の賃料を支払うことなどは禁止されておらず、利益の追求一般が禁止されるわけではありません。

ただし、次のような行為は剰余金の配当禁止を潜脱する配当類似行為として禁止されているので注意が必要です。

  • 近隣相場と比較して著しく高額又は業績連動型の不動産賃料の支払い
  • 役員等への不当な利益の供与
  • MS法人などを介した不当に高額な業務委託料の支払い

2 医療法人の業務

医療法人は非営利性が要求されるところ、その業務の範囲には制限があります。
医療法人が行える業務としては、①本来業務、②附帯業務、③附随業務が挙げられます。④収益業務については原則的に許されていませんが、社会医療法人に限り収益業務を行うことが認められています。

(1)本来業務

医療法人の本来的な業務内容であり、病院、診療所又は介護老人保健施設の開設、運営がこれにあたります。

(2)附帯業務

本来業務に支障のない限り、定款又は寄付行為に定めることで認められる業務です。
医療法42条で規定されており、附帯業務としては次のような業務を行うことが認められます。

  • 医療関係者の養成又は再教育
  • 医学又は歯学に関する研究所の設置
  • 医療法第39条1項に規定する診療所以外の診療所の開設
  • 疾病予防のために有酸素運動を行わせる施設(疾病予防運動施設)の設置
  • 疾病予防のために温泉を利用させる施設(疾病予防温泉施設)の設置
  • 保健衛生に関する業務(薬局、施術所など)
  • 社会福祉法に定められた事業のうちケアハウス、保育所など厚生労働大臣が定めるものの実施
  • 有料老人ホームの設置

(3)附随業務

本来業務である病院などの開設、運営に附随して行われる業務については定款に定めることなく行うことが認められています。
具体的には次のような業務がこれに該当します。

  • 病院等の施設内で行われる売店の営業・駐車場の運営・自販機の設置等
  • 病院に通院する患者の搬送業務
  • コンタクトレンズやサプリメントの販売など

(4)収益業務

社会医療法人については収益業務を行うことが認められています。
具体的には、鉱業、建設業、電気・ガス・熱供給・水道行、金融・保険業を除く業種の収益業務を行うことが認められています。

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G&S法律事務所
野崎 智己(Nozaki Tomomi)

弁護士法人G&S法律事務所 パートナー弁護士。早稲田大学法務部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。第二東京弁護士会にて2014年弁護士登録。弁護士登録後、東京丸の内法律事務所での勤務を経て、2020年G&S法律事務所を設立。スタートアップ法務、医療法務を中心に不動産・建設・運送業などの企業法務を幅広く取り扱うとともに、離婚・労働・相続などの一般民事事件も担当。主な著書として、『一問一答 金融機関のための事業承継のための手引き』(経済法令研究会・2018年7月、共著) 、『不動産・建設取引の法律実務』(第一法規・2021年、共著)、「産業医の役割と損害賠償責任及びその対処」(産業医学レビューVol.32 No.1・令和元年、共著)、『弁護士のための医療法務入門』(第一法規・2020年、共著)等。