医師の財産分与

財産分与とは、婚姻生活中に夫婦で協力して築き上げた財産(夫婦共有財産)について、離婚の際に分配する法律上の制度です。婚姻中に取得した財産については原則として夫婦共有財産と扱われ、名義のいかんを問わずに財産分与の対象とされます。つまり、夫婦の財産のうち自宅不動産、預貯金など大半が夫名義であったとしても、原則として全て夫婦共有財産と扱われて財産分与による精算の対象となります。

目次

1 分与割合

財産分与では、夫婦の一方のみが働いている場合であっても、財産形成については夫婦の協力のものになされたとして、夫婦の財産を合算の上、2分の1ずつの割合で財産分与なされることが原則です。

しかし、夫婦の一方の特別の努力や能力によって高額の財産形成がなされたと評価される場合については、分与割合の調整が図られることがあります。実際、過去の裁判例においても夫が医師の場合について、医師である夫の特別の努力や能力による高額の財産形成がなされたと評価して、医師である夫に対して、2分の1以上の割合の財産取得を認めた事例があります(福岡高判昭和44年12月24日など)。

そのため、医師の離婚においては、医師側が特別の努力や能力によって財産形成に大きな貢献を果たしたことを具体的な事実や証拠によって、丁寧に裁判所に主張立証することが重要となります。

2 出資持分

現在の医療法人には株式のような出資持分というものは存在しませんが、2007年4月より前に設立された医療法人については社員に出資持分が認められていました。そのため、このような出資持分がある医療法人の社員である医師については、離婚に際して当該出資持分について財産的評価を行った上で、財産分与を検討する必要があります。

この点、医院の土地建物や医療機器などは高額となるところ、出資持分の評価次第では医療法人の出資持分(支配権)の取得と引換えに多額の現預金などを支払う必要が生じます。

また、名目上、配偶者に出資持分を持たせている事例も多く、名目的な出資持分について単純に配偶者の財産として扱い、財産分与において配偶者の出資持分を取得するとなると、同様に多大な金銭的負担を強いられることになる点に注意が必要です。

3 医療法人などの財産

医療法人を経営している場合、原則として医療法人の財産については医師個人の財産(夫婦共有財産)とは扱われずに、離婚における財産分与の対象となりません。

しかしながら、医師と医療法人を同一視できるような、すなわち医療法人の法人格が形骸化しているような場合については、例外的に医療法人の財産も医師個人の財産として財産分与の対象とされ、医師が医療法人の財産を取得することと引換えに配偶者に対する多額の現預金などの支払いが必要とされた例もあります(福岡高判昭和44年12月24日など)。そのため、医院などを経営する医師の場合、離婚の財産分与に際に、個人財産と医療法人の財産の区別・管理の状況などについても説明を求められる可能性があり、適切な説明ができないと通常より多額の財産分与を請求されるおそれがあります。

著者のイメージ画像

G&S法律事務所
野崎 智己(Nozaki Tomomi)

弁護士法人G&S法律事務所 パートナー弁護士。早稲田大学法務部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。第二東京弁護士会にて2014年弁護士登録。弁護士登録後、東京丸の内法律事務所での勤務を経て、2020年G&S法律事務所を設立。スタートアップ法務、医療法務を中心に不動産・建設・運送業などの企業法務を幅広く取り扱うとともに、離婚・労働・相続などの一般民事事件も担当。主な著書として、『一問一答 金融機関のための事業承継のための手引き』(経済法令研究会・2018年7月、共著) 、『不動産・建設取引の法律実務』(第一法規・2021年、共著)、「産業医の役割と損害賠償責任及びその対処」(産業医学レビューVol.32 No.1・令和元年、共著)、『弁護士のための医療法務入門』(第一法規・2020年、共著)等。