保険医療機関等における個別指導と対策

目次

1 法令及び療養担当規則の遵守

個別指導では「保険診療の質的向上と適正化」を目的として、医師法、医療法、健康保険法、療養担当規則および診療報酬点数表等が遵守されているかの確認がなされます。

そのため、健康保険法、医師法、医療法、薬機法等の各種関係法令や保険医療機関及び保険医療養担当規則等の規定を遵守した保険診療を行い、根拠ある診療・調剤に基づくレセプト請求を日頃から心がけることが、結果的に指導・監査等への対策となります。

なお、療養担当規則とは、健康保険法の72条に基づき、厚生労働大臣が保険医療機関と保険医が保険診療を行うにあたって守るべき基本事項を定めたもので、正式には「保険医療機関及び保険医療養担当規則」といいます。

その中でも、以下では個別指導の際に問題になりやすいポイントについて、厚生労働省が公表している「保険診療の理解のために(医科)」に基づいて説明させていただきます。

(1)診療録に関する留意事項

診療録は診療経過の記録であると同時に診療報酬請求の根拠とされ、診療事実に基づいて必要事項を適切に記載しなければ不正請求の疑い招くおそれがあるとされています。

一般的な記載上の留意点としては次のとおりです。

  • 診療の都度、必要事項を記載する。
  • 記載はペン等で、修正は修正液を用いず二重線で行う。
  • 傷病名を所定の様式に記載し、絶えず整理する。
  • 責任の所在を明確にするため、署名を必ず行う。
  • 診療報酬請求の算定要件として、診療録に記載すべき事項が定められている項目があることに留意する。

(2)傷病名の記載に関する留意事項

  • 医学的に妥当適切な傷病名を医師自ら決定する。
  • 必要に応じて慢性・急性、部位、左右の別を記載する。
  • 診療開始・終了年月日を記載する。
  • 傷病の転帰を記載し病名を整理する。
  • 疑い病名は早期に確定病名または中止とする
  • 急性病名が長期間続くことは不適切
  • 査定を防ぐための虚偽の傷病名(レセプト病名)は認められない

(3)診療報酬の算定に関する留意事項

  • (初診料)医学的に初診といわれる診療行為があった場合に算定。ある疾患の診療中に別の疾患が発生した場合や、受診の間隔があいた場合でも、新たに初診料を算定できるわけではない。
  • (再診料)一般病床200床未満は再診料、一般病床200床以上は外来診療料(検査、処置の一部が包括化)を算定する。来院の目的が、別の初・再診に伴う「一連の行為」である場合には、別に再診料は算定できない。
  • (医学管理料)医学的管理や療養指導を適切に行った上で、算定要件として定められた指導の内容の要点等を診療録に必ず記載する必要がある。
  • (在学医療)在宅患者訪問診療は、通院による療養が困難な者に対する定期的な診療であり、継続的な診療の必要のない者や通院が可能な者に対して安易に実施し、訪問診療料を算定してはならない。
  • (検査・画像診断)個々の患者の状況に応じ検査項目を選択し段階を踏んで必要最少限の回数で行う。検査を行う根拠、結果、評価を診療録に記載する。
  • (投薬)適応外投与、用法外投与、禁忌投与、長期漫然投与などの不適切な投与とならないようにする。

2 情報漏洩対策

在職中の職員や退職した職員からの嫌がらせ目的などの告発により、本来受ける必要のない個別指導や監査に発展するケースが少なくありません。さらに悪質な場合、カルテの無断持ち出しや破棄に至るケースもあります。

そのため、このようなトラブルに発展しないように職員との関係性構築はもちろんのこと、情報漏洩対策が重要となります。主な情報漏洩対策としては次のような方法が考えられます。

  1. 院内研修の実施
  2. 秘密保持に関する誓約書の作成
  3. 就業規則や秘密保持に関する規程の整備

研修内容や誓約書・就業規則の効果的な作成には弁護士などの専門家の知見の活用が重要となります。

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G&S法律事務所
野崎 智己(Nozaki Tomomi)

弁護士法人G&S法律事務所 パートナー弁護士。早稲田大学法務部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。第二東京弁護士会にて2014年弁護士登録。弁護士登録後、東京丸の内法律事務所での勤務を経て、2020年G&S法律事務所を設立。スタートアップ法務、医療法務を中心に不動産・建設・運送業などの企業法務を幅広く取り扱うとともに、離婚・労働・相続などの一般民事事件も担当。主な著書として、『一問一答 金融機関のための事業承継のための手引き』(経済法令研究会・2018年7月、共著) 、『不動産・建設取引の法律実務』(第一法規・2021年、共著)、「産業医の役割と損害賠償責任及びその対処」(産業医学レビューVol.32 No.1・令和元年、共著)、『弁護士のための医療法務入門』(第一法規・2020年、共著)等。