医療法人における承継の流れ

第三者への医業承継については初期相談からクロージングまで、承継先の検討、譲渡側、譲受側の条件交渉など場合によっては1年以上の相当期間を要することになりますが、大まかな承継の流れは次のとおりです。

  1. 初期相談
  2. アドバイザーの選定
  3. 承継条件や承継方法(スキーム)の検討
  4. 承継候補者への提案及び条件交渉
  5. 基本合意書の締結
  6. DDの実施
  7. 最終契約書の締結
  8. クロージング(引渡・決済)

目次

1 初期相談

まず、自身が希望する医業承継の内容・方法・時期などについて方向性を決めるために医師会、金融機関、仲介業者など初期相談を行うことになります。この初期相談を通じて大まかな方針を決定し、適切なアドバイザーを検討することになります。

2 アドバイザーの選任

大まかな方向性が決まった段階で医業承継に向けたアドバイザーを選任するか、アドバイザーを選任するとして税理士・弁護士や外部のアドバイザリー業者などどのようなアドバイザーに依頼するかを検討することになります。

3 承継条件・承継方法(スキーム)の検討

決算書などを通じて現時点の病院・クリニックの保有資産、売上等の情報を整理して事業価値の評価を実施して、希望譲渡価格を決定します。

また、あわせて病医院の体制や自身の承継方針を踏まえて承継方法(スキーム)を検討します。

4 承継候補者への提案及び条件交渉

整理した承継条件・承継方法(スキーム)を前提にノンネームシートを作成します。これは譲受候補者に当該案件に興味があるかを検討してもらうため、譲渡希望者の事業内容・所在地・財務状況などの概要のみを記載した匿名資料です。

ノンネームシートを見て興味をもった譲受候補者と秘密保持契約を締結した上で、次はIM(インフォメーションメモフランダム)を作成・交付します。これは譲渡希望者の事業内容・財務状況・承継条件などの詳細を記載した資料で、譲受候補者がさらに具体的な交渉に進むかを判断するための資料となるのでわかりやすい情報提供を心掛ける必要があります。

さらに、譲受希望者と譲受候補者のトップ面談を実施し、双方が承継に向けて交渉を進めることの意向が確認できたら、具体的な承継条件の交渉に入ることになります。

5 基本合意書の締結

譲渡価格、承継方法・条件、スケジュール(譲渡日など)が合意出来たら基本合意書を締結することになります。これは最終契約に向けて基本的な契約条件を確認するためのもので、最終的に最終契約に至らなかったとしてもペナルティなどは課されません。

また、基本合意書においては独占交渉権が定められることが一般的で、譲渡希望者は一定期間、他の譲受候補者との交渉などが禁止されることになります。

6 DDの実施

基本合意書の締結までは譲渡希望者が提供する資料や情報に基づいて譲受候補者は検討を進めてきましたが、最終契約に向けて、これまで提供された情報や資料が実際に正しいものかの検討を行う必要があります。この調査がデューデリジェンス(DD)であり、財務・税務、事業、人事労務、法務などの分野に分類されます。各DDは必要に応じて実施され、必ずしも全ての種類のDDが行われるわけではありませんが、特に影響の大きい財務・税務DDは実施されることが一般的です。

7 最終契約書の締結

DD及び最終条件の交渉を経て、医業承継に向けた最終契約書が締結されます。基本合意書とは異なり法的拘束力を有するため、締結後、当事者はその契約内容の実現に向けた引渡・決済の手続(クロージング)を進める必要があります。

最終契約書では、譲渡対象・範囲、譲渡価格やその方法といった基本的な条件の他に、クロージングの前提条件、契約当事者の誓約事項や表明保証、誓約事項や表明保証違反などが発生した場合の処理(解除の可否、損害賠償の範囲)などの様々な取り決めがなされます。

以上のとおり、医業承継においては、医療のみならず財務・税務や契約交渉に関する法的な専門知識が数多く要求されるところ、医業承継に関する専門的な知見を有するアドバイザーや税理士・会計士・弁護士などの専門家の助力が不可欠となります。

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G&S法律事務所
野崎 智己(Nozaki Tomomi)

弁護士法人G&S法律事務所 パートナー弁護士。早稲田大学法務部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。第二東京弁護士会にて2014年弁護士登録。弁護士登録後、東京丸の内法律事務所での勤務を経て、2020年G&S法律事務所を設立。スタートアップ法務、医療法務を中心に不動産・建設・運送業などの企業法務を幅広く取り扱うとともに、離婚・労働・相続などの一般民事事件も担当。主な著書として、『一問一答 金融機関のための事業承継のための手引き』(経済法令研究会・2018年7月、共著) 、『不動産・建設取引の法律実務』(第一法規・2021年、共著)、「産業医の役割と損害賠償責任及びその対処」(産業医学レビューVol.32 No.1・令和元年、共著)、『弁護士のための医療法務入門』(第一法規・2020年、共著)等。